2013年03月14日
クセになる味わい。
3月31日(日)に、平安堂長野店にお越しくださる
岸本佐知子さん。
名翻訳家にして、名エッセイスト!
とご紹介いたしましたが、
どのような名エッセイストなのか。
魅惑の世界をご紹介いたしましょう。
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『なんらかの事情』(筑摩書房)
「変化」より
聞くと何となくモヤモヤする言葉、というのがある。
たとえば「諭旨免職」なんかがそうだ。耳で聞くと、どうしても頭の中で「油脂免職」と変換
岸本佐知子さん。
名翻訳家にして、名エッセイスト!
とご紹介いたしましたが、
どのような名エッセイストなのか。
魅惑の世界をご紹介いたしましょう。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
『なんらかの事情』(筑摩書房)
「変化」より
聞くと何となくモヤモヤする言葉、というのがある。
たとえば「諭旨免職」なんかがそうだ。耳で聞くと、どうしても頭の中で「油脂免職」と変換
されてしまう。
油脂免職。それはどんなものなのか。たぶん、普通の免職つまりクビ、に何らかの油脂の
要素が加えられたものだ。クビを言い渡されたあげく油を一気飲みさせられる、とか。
クビになり荷物を箱に入れて去っていく、その出口までの廊下にずっと油が塗ってある。
あるいは油脂部屋と呼ばれる仕置き部屋が会社のどこかにあり、そこに閉じ込められて
全身に油脂を塗られる。塗られる油は、その人のしでかしたミスに応じてサラダ油、ごま油、
ラード、ガソリン、重油とランクが上がっていき、最も最大な過失に適応されるタールを
塗られるとそれはつまり塗炭の苦しみということであり命を落とす場合もある。
尻子玉、という言葉もかなりモヤモヤする。
まずそれが具体的にどんなものなのか、頭の中で視覚化できないのがもどかしい。尻子玉
といえば河童に抜かれるものと相場が決まっているが、河童はそれをどこからどうやって
抜くのか。やっぱり尻からだとすると、直径はどれくらいなのか。あまり大きいと痛い。
以前テレビで「馬が急に暴れだしたと思ったら尻からポンと出てきた玉」というのを
見たことがあるが、それは真っ白でハンドボールぐらいの大きさがあった。もしあれが
尻子玉だとするなら、人間に直すとだいたいソフトボールぐらいだろうか。
やっぱりけっこう大きい。
ということについて否応なしに考えてしまうに、「しりこだま」は脳内で「尻谺」と変換され、
尻の中の空洞でヤッホー、ヤッホーとこだまが響き合うような気がして、二重にモヤモヤする。
立会いと同時に変化しました、というのもそうだ。
もちろん本当の意味は頭ではわかっている。わかっているけれど、つい違うことを
考えてしまう。
山田山、立会いと同時に全身が緑色に変化しました、とか。
山田山、立会いと同時に両脇からさらに二対ずつ腕を生やして六本の腕で相手のまわしを
がっちりとつかみました、おっと対する鈴木山も負けずに変化、体を二倍に巨大化させて
背中から翼を生やしました。とか。
あるいはもっと内面的な変化なのかもしれない。
時間いっぱいとなり手をついた瞬間、山田山はふと、遠くに行きたい、と思った。おれは
こんなところで何をやっているのだろう。なぜこんな太った体で、こんな髪型をして、
裸に近い格好で、同じようななりをした男と輪の中で這いつくばっているのだろう。ここに
いる大勢の人々は、これのどこが面白くてこんなに歓声をあげているのだろう。すべて
が虚しい。勝ち負けなんて無だ。おれは誰にも勝ちたくなんかない、今はただひたすら故郷の
海が見たい。奇妙な袴を着け、うちわのようなものを持った老人が「時間です」と言っている。
鈴木山が立ったのでおれも立ったが、踏み込まず、その場で棒立ちになった。
投げるなりすくうなり好きにすればいい。鈴木山の目の奥で何かが動いた。それは敵意とは
違う、不思議と温かな何かだった。とおもった瞬間あいつの姿が消え、おれの体がふわりと
浮き上がった。肩ごしに見上げると、背中から大きな翼を生やした鈴木山が鉤爪でおれの
肩をつかんでいる。みるみる土俵が小さくなる。袴の老人も、ひしめく観衆も、黒紋付の
連中も、あっけに取られてこちらを見上げている。
国技館の屋根を突き破ると、東京の空は青かった。「おまえの故郷、沖縄だったよな」
上のほうで鈴木山が、ばさりと大きく翼を鳴らした。
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岸本さんのエッセイの世界、いかがでしょうか??
クセに・・・なりますよ。
ぜひ、岸本さんの脳内をのぞきにお越しくださいませ。
◆お申込み・お問合わせ◆
平安堂長野店カフェ「ぺえじ」 電話 026-228-8462
♪ 皆様のお越しを、お待ちいたしております ♪
Posted by C.R.C. at 14:52│Comments(0)
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